ライフスタイルや価値観の変化によって、エシカルやサステナブルというキーワードへの関心が増している昨今。産学官民が一体となってサステナブルなコスメ産業に力を入れ、新たな商品や技術を発信している地域があります。それが佐賀県です。
佐賀県では、人材育成・研究開発やスタートアップの創業・成長支援といった環境整備、さらに原料として有用な地産素材の探求や国際取引の推進など、あらゆる角度からコスメティック産業を支援しているといいます。
今回は、そんな佐賀県がプロモートする「SAGAn BEAUTY」を探るべく、美容には目がないというインフルエンサーの美舞さんと松藤茉鈴さんが現地レポート。実際に「SAGAn BEAUTY」を支える企業や施設を訪れ、キーパーソンとなる方々からコスメのまち・佐賀ついてお話を伺いました。
サプライチェーンの存在が
「コスメティック構想」の起源。
佐賀県が地域創生の取り組みとして掲げたのが、唐津市や玄海町を中心とする北部九州に美と健康に関するコスメティック産業を集め、コスメに関する自然由来原料の供給地となることを目指す「コスメティック構想」です。唐津市には日本三大松原のひとつに数えられるほどの雄大な松原があり、そこに隣接するように存在するのが、「コスメティック構想」を語るうえで欠かすことができない「浜崎コスメティッククラスター」です。輸出入にも対応可能なアジアの中心に位置するこの地に、化粧品の輸入代行・検査分析会社やOEM(受託製造)メーカー、保税倉庫を持つ物流会社といった企業が集まっていたのが、この構想の始まり。現在では、原料商社やパッケージを得意とする印刷会社(2022年11月稼働予定)も進出し、コスメティック産業のミニクラスターを形成しています。地域内に一貫したサプライチェーンが存在することで、スムーズかつ安定したものづくりを実現できるといいます。
加唐島の椿油を原料に
たった一人でコスメ業界に参入。
まず私たちが訪れたのが、佐賀県最北端に位置する加唐島です。ここには今から6年前、たった一人でコスメ業界に参入した女性がいます。唐津市加唐島の椿油を使った化粧品をプロデュースしている株式会社バーズ・プランニングの松尾聡子さんです。彼女は少子高齢化が進むこの島で、コスメを通じて島の宝である椿を守り、その価値を向上させる取り組みをおこなっています。赤ちゃんから使える無添加スキンケアに加え、食べるコスメとして、食用油やドレッシングも手掛けるとともに、種を絞るときに出るかすを入浴剤やスクラブとして再利用するなど、資源である椿を軸に、産業を循環させるサイクルをつくろうとしているそうです。SDGsの目標のひとつでもある「つくる責任」を意識されていると感じました。
「島全体の活性化につながると思ってはじめたのが椿油のコスメづくりです。最初は高齢者の多い島民からはなかなか理解が得られませんでしたが、商工会と連携して少しずつ距離を縮めるうちに、商品化に協力してもらえるようになり、今では「島のことを考えてくれてありがとう」と島民に感謝されることも。最近は、地元商業高校の生徒たちと共同で商品開発に取り組んで
いて、地域の環境問題に向き合うきっかけづくりとして、ごみを資源にするコンポストをつくったりしています。高校生が取り組むことで大人に与える影響は大きく、持続可能なものづくりに若い人たちの力は欠かせません」(株式会社バーズ・プランニング代表取締役 松尾聡子さん)
コスメ研究の第一人者を迎え
技術開発や人材育成にも注力。
佐賀県では、コスメ業界の未来に貢献する技術や人材を輩出するべく、新たな技術開発や人材育成にも力を入れています。大手化粧品メーカーで20年以上も商品開発に携わってきた研究者の徳留嘉寛さんを佐賀大学の特任教授として迎え、県内企業との共同開発をおこなったり、若手研究者の育成に取り組んでいるそうです。
「自分が佐賀に拠点を置いたことは学界ではかなりインパクトがあったようで、「なぜ佐賀に?」とよく尋ねられます。その理由は「おもしろいから」。関東にはない珍しい農産物が多いし、地方自治体と国立大学がタッグを組んでコスメ事業にかかわっているなんてかなり進んでいるなと感じました。研究をとおして生産者と消費者とのあいだをうまくつないで、コスメに関わる人みんなが幸せになれるようなことで佐賀を興していけたらいいですよね」(国立大学法人佐賀大学特任教授 徳留嘉寛さん)
コスメビジネスをしやすい環境が整っていることも佐賀県の強み。「薬草園」は、漢方やコスメ原料となる植物の試験栽培をおこなう玄海町の施設で、予約制でハーブティーを自分好みに作って味わえるワークショップも体験でき、薬草を身近に感じることができます。
その他にも、企業が化粧品の分析を依頼できたり、化粧品の効果を測定する機器を使わせてもらえる県営の研究施設などがあるそうです。
続いて訪れたのは、2018年に地域の人とともにつくりあげた唐津市の工場「FACTO」。奈良県に本社を置くクレコスという会社が唐津市と協定を結び、この工場を借り受けてコスメをつくっているそう。地域の人々、障がいのある方々と連携し、地産素材を活用した商品をつくっているということも印象に残りました。
「唐津に工場をつくった理由は「行政が近い」からです。佐賀県や唐津市のように行政にコスメの部署があって、自分たちのような小さい企業の話も吸い上げてもらえるし、一緒に考えてくれる。面白いことができそうだなと思いました。社会貢献は特別なことという意識ではなく「当たり前のこと」として母の代からやっています。例えば食事のとき、「どこ産のお米」というのは知りたいはずで、コスメの原料もそれと一緒。トレーサビリティのしっかりしたものをつくるなら、原料から自分たちでやればいいのでは? という発想になりました。耕作放棄地を活用するなど、地域の活性につながると感じた気づきを行動にして、それを繰り返してきて今があります」(株式会社クレコス代表取締役社長 暮部達夫さん)
県では、こうしたリソースも活かしながら、革新的なビジネスモデルを描くスタートアップの支援プログラムも実施しています。このように、公営の施設を活用しながらチャレンジできるのも、「コスメティック構想」の魅力ではないでしょうか。
前述の松尾さんがつくる種の絞りかすから生まれた入浴剤のように、佐賀県ではサステナブルな取り組みや商品も数多く誕生しています。無添加へちま水を製造する「へちまや群生舎」では、へちまたわしも販売。脱プラスチックの流れもあり、高級宿で身体用スポンジのアメニティに採用されていたり、飲み込んでしまっても大丈夫なペットの歯磨きおもちゃとしても人気が高いそうです。
ほかにも、観光列車で提供されるような高級柑橘ジュースを販売する生産者が、残った果皮からアロマオイルを抽出したり、海苔やアスパラガスといった特産品の規格外の部分を活用したコスメも開発されています。
「コスメティック構想」ともリンクするのが、佐賀市が推進する「バイオマス産業都市構想」。廃棄物であったものが、エネルギーや資源として活用されることを目指すこの取り組みからも、コスメが誕生しています。市の清掃工場で排出されたCO2が藻類の培養に活用されていて、藻類から抽出されたアスタキサンチンはコスメやサプリに使用されているそうです。さらに、商品への配合に基準が満たない規格外のアスタキサンチンは、鶏の飼料に混ぜることで「壮健美卵(アスタキサンチン入りの卵)」を誕生させることにも成功しています。私たちも、この壮健美卵を卵かけごはん専門店「レストランサーグラ」で美味しくいただきました。抗酸化作用があるといわれるアスタキサンチンで、身体の内側からも綺麗を目指せそうです。
県産品を扱うショップ「SAGA MADO(佐賀駅前)」や「sagair(佐賀空港内)」には、今回ご紹介した商品をはじめ、県産素材を使ったさまざまなコスメを販売するコーナーがあります。もはやコスメは佐賀土産の代表的な存在になっていたのです。
佐賀県が目指す「日本一コスメビジネスがしやすいまち」は、作る人だけでなく、私たちのように使う人にとっても魅力に溢れていました。
全国で唯一コスメ産業を支援する官民の体制が整う佐賀県。この構想のはじまりからまもなく10年が経つ今サステナブルな取り組みやコスメに触れられる佐賀県を訪れてみてはいかかでしょうか。